伏見憲明著「団地の女学生」感想


「そうよ~、
 今は団地妻シリーズを書いているのよ(笑)。」
という伏見さんのセリフと
「そういう(エロの)ジャンルがあるんですよ。」
という某編集者さんの耳打ち解説を、
疑うことなくそのままインプットしていたため、
今回ご本をいただいて読むまで、
ドロドロの官能小説だと思っていました。
が、ぜんぜん違いました。
「爪を噛む女」は
「これでもか、これでもか」というくらい
粘り強く徹底して、
女の嫉妬のからくりを丹念に
描き続けている作品です。
そして
「そんな嫉妬をしてしまう卑しい自分」を
何重にも自己モニターしていってしまうことの
苦しみも。
私の中にも巣食う
「他人を嫉妬する自分」
「他人から嫉妬される自分」の
両方の醜さを見透かされ、
えぐりだされるようで気恥ずかしくもあり、
同時に、私以外にも
このどうしようもない
自己モニター回路を持っている人がいるんだ
という安堵感による救いもありました。
最後のシーンでは思わず涙ぐみました。
ひとつの規範通りに
自分を従わせ続けた老女(内田さん)は、
本当に身体内に負のエネルギーが蓄積していかない、
聖人のような人間だったのだろうか。
もしストレスを感じているのにもかかわらず、
とことん抑圧してきたとしたら、
かわいそうすぎて心配にすらなる。
そんな緊迫感の中、押入れから遺品が…
ここでも救われました。
苦悩の重さや人間臭さが突然可視化され、
遠かった老女が急に近くの「ばあちゃん」になる。
ばあちゃんが生前、つらさの解消方法を
見つけられていたことが嬉しくて、
ホッとして、涙まじりにクスリと笑えました。
「団地の女学生」は、ノスタルジーの世界。
「爪を噛む女」同様、
伏見さんの作品における
老女に対するまなざしにはいたわりを感じます。